Back Cindy - A kind of Cinderella Story

金曜日の夜眠る前に「もうダメだ!やっぱり行こう!」と思い立ち(観念し?)、翌日始発の新幹線に飛び乗りました。

友人に誘われて、6月に「トーマの心臓」を観劇して以来、坂道を転がり落ちる勢いで激ハマりしている劇団、スタジオライフ。
その若手公演が先週末から始まっているのです。
私は8月23日の昼夜公演で、Surfinia&Amabel両チームを観劇しました。
(スタジオライフは基本的にすべての演目をWキャストで上演し、それぞれのチームに素敵なチーム名がつけられます)
初めてのウエストエンドスタジオ、入ってビックリな箱の小ささでしたが、アットホームで居心地のいい空間でした。
あー中野にすみたーい!!!(突然の煩悩)
以下、観劇して考えたことなど、雑感です。

 

 

Back Cindy - A kind of Cinderella Storyは、タイトルの通りシンデレラをモチーフとしたストーリー。
義母Mrs.スノウに虐げられている主人公ロージーは、実母のお墓に泣き言を言いながら自分を慰める日々を送っています。
そんな折、アルフレッド王子の従者トロルがスノウ家に現れ、王子の花嫁探しの為のダンスパーティーに招待されるという、千載一隅のチャンスが!
招待状は義母と二人の義姉に奪われてしまいますが、井戸から現れた魔女?妖精???マザーマギーの取り計らいにより、ロージーに招待状と美しいドレス、馬車が与えられます。
しかし浮かない顔のロージー。
招待状があっても、美しいドレスを着ても、アンティークな馬車が用意されても、ダンスパーティーには行けない。彼女はワルツが踊れなかったのです。
そこに「森のバカ」と呼ばれている、森に住む言葉に不自由な浮浪者・ゼッドが現れ、物語は展開していく…のですが。

元ネタであるシンデレラのストーリーをなぞりながら、最初から登場人物のセリフによってこの物語はメタ化されています。招待状を受け取った主人公ロージーは「これはどんな種類のおとぎ話なのかしら?この物語をすすめる為の傾向と対策は?」と、はっきりこれが選択肢に正解のある筋書きであることを示し、スノウ家をダンスパーティーに招待したアルフレッド王子は「この人たちをパーティーに招待するべきなんだ。それがいい気がする」と、筋書きに対して自覚的な発言をします。誰もがこれがパターン化されたあらすじであることを自覚しながら、その筋書きの通りにストーリーをすすめています。

そこに現れるのが、オリジナルのシンデレラには登場しない(…よね?)森に住む浮浪者、ゼッドです。「森のバカ」として言葉を奪われた存在である彼はしかし、彼だけが筋書きにはない彼自身の言葉を、ロージーになげかけることができます。

たとえばお墓で泣きくれるロージーに彼は言います。「君の母さんはいいお母さんだったかもしれない。5才の君にとってはね」「君はお母さんのことを覚えてるって言うけど、それはただ覚えてるってことを覚えてるだけだ」「どうして君は大人になろうとしないの?」5才の時に死んでしまった母親との記憶の中で、母と対話を繰り返すロージーは、母の娘だった5才の少女の中に閉じこもろうとしている、成熟を拒否している存在です※1。ゼッドはシンデレラのストーリーには登場しない言葉でロージーを揺り動かし、ワルツを教えることで彼女のとまっている時間をすすめ始めます。すすみ始めたロージーの時間が、ダンスパーティー=王子様とロージーの幸福な結末に向かうことを知っていても。

またロージーとゼッドはこんな言葉も交わします。「あなた意地悪だわ。お金持ちだって私たちとおんなじ人間よ。たまたまお金持ちに生まれてきたというだけで」「じゃあどうして君はお金持ちになりたいの?」「今よりましだからよ」「どうしてそれが今よりましなの?」「ここが最悪だからよ!」そう言って今を否定してしまうロージーに、ゼッドは、君になら最悪な今をなんとかできる筈だと言います。これはつまり、これより前にロージーが描いた二つの未来、「毎日掃除や洗濯をして暮らすこと」「ワルツを踊ってお城で暮らすこと」それとは別の、第三の未来をゼッドが示したのではないかと思うのです。「最悪な今ここにとどまりながら、それと向き合い、なんとかしようとすること」

最終的にロージーは、王子が花嫁を探す為に持ってきた靴を井戸に投げ捨てて、自分が王女になる未来を自ら捨ててしまいます。これはロージーが、ゼッドが示した第三の未来を生きて行こうと決意したシーンのように私は思いました。そうして彼女はゼッドに尋ねる。「あなたは私がストーリーを間違っただけだなんて思わないでしょう?」

ラストシーンの王子はなんだか切なかったな。ロージーの義姉ゴネリルとの未来を選んだ王子もまた、筋書きから解放されたのだとみることもできるのかもしれないけれど、王子である彼は明日に控える土日を挟むことなく金曜日の今日結婚しなくてはならず、その為の花嫁をお城に連れて帰らなければならない。「君は幸せ者だ。そして賢い。この森でずっと花をつんだりしながら生きて行けるのだから」ロージーへのこの言葉には、「王子」という生まれついての、決して自分では選ぶことのできない名前の、その重さに対する悲哀が滲んでいたような気がしました。素敵だったなあ藤波さんの王子…。

千葉さんのゼッドもとても素敵でした。ルーの時にも思ったけれど、千葉さんの「どうして?」にはとてもピュアな響きがあります。頭が悪い訳ではなく、相手を責めているのでもなく、もっと素敵なものを君は手にできるのに!という思いに溢れた問いかけ。ゼッドがロージーにいくつもの「どうして?」をなげかけるシーン、大好きです。思うように言葉を紡げない分、千葉さんのゼッドはいつも全身で真摯にロージーに向かっていて、感動的でした。

久保&宇佐見両ロージーも本当によかった!特に久保さんは顔立ちがたいへん女性的なので、彼がシンデレラを演じるとなればさぞ美しかろうと思ったのが土曜日に私を新幹線に飛び乗らせた一因なのですが、おっとりとした所作が無防備で、大人になりきれていない、無自覚な少女のロージーにぴったりでした。宇佐見さんのロージーは、少女漫画の主人公のよう。目で追っていると知らず知らずの内に引き込まれ、感情移入してしまい、2時間があっという間に過ぎていました。

その他にも、緒方さんのトロルが不思議の国のアリスのウサギみたいに不思議な存在感を醸し出していたことや、今回マザーマギーを演じられた石飛さんを公演の度に好きになってしまうこと、若林さんのMrs.スノウに圧倒されたことなどまだまだ書いておきたいことはつきないのですが…いかんせん日付が変わってしまった!!!

なのでもう寝ます。
はー中野に住みたい…(煩悩再び)


※1…ロージーのお父さんが娘に対して「お前いい身体になったなあ」「ちょっと触らせてくれ」というシーン、アウトだろ…と思ったのですが、成長を無自覚に拒否しているロージーに対する、エクスキューズかなあとぼんやり思いました。精神が少女にとどまっていても、身体は女性になっているという表現なのかなと。でもあそこドキっとしてしまいますが。