たましいの創造性 ゲスト:萩尾望都

京都キャンパスプラザで開催のシンポジウムに、萩尾望都さんが登壇されるということで、聴講に行って参りました。

人生で初めての生望都さま!!!当日は興奮と緊張(なぜオマエが緊張…という感じですが)でめまいがする程でした。
素敵な方だったな〜望都さま。上品で丁寧でチャーミングで。
伺ったお話もとても面白く豊かな内容でしたので、最近めっきり頼りにならない私の脳内メモリスティックに保存しているだけでは心許ないと、ここに書き起こすことにしました。
というかどうしても文字にしてまとめたいという勢いだけで、ブログを開設。続くんかいな。

すべてニュアンスです。
また萩尾さんのお話は、順序よりもトピック優先でまとめました。

 

 

2014.7.13 シンポジウム 31世紀のこころを占う 第2回「たましいの創造性」@京都キャンパスプラザ

残酷な神が支配するについて
・性虐待の話。長いことねかせておいた話だったので、描くことが決まったら押さえていたものを吐き出すような作業になり、9年間の連載を休むことはなかった。
・開始当初編集の方には2年ほどの連載と伝えていたが、それが4年になり、5年になり…。
・グレッグはサイコパス。相手が罪悪感をもつような言葉で人を責める。モデルは過去の嫌な人。グレッグを通じて、自分がsaれたことを自分のキャラにやり返すという行為は、想像外に気持ちよかった(笑)
・この作品の後、母親が怖くなくなった。以前は怒らせないように機嫌をとりながら母親に接していた。ところが、親は神でも悪魔でもないということが分かった。お母さんの人間宣言という感じ。それに伴って、作品を構想する上でも、大人視点の話が描けるようになった。親→子視点の話。
・前半は、どんな風にいじめてやろうかと、ジェルミが逃げられないストーリー立に。グレッグは相手の急所につっこんで、相手が抵抗できないように洗脳していく。サイコパスの本を読んだ。刑務所にいる詐欺師の人へのインタビューに、どのように犠牲者を見つけるのか、という質問があった。彼は罠にかかりそうな人はすぐに分かるという。グレッグはこの人のように、先天的に犠牲者を見分けられる人。反転すれば、いい心理士になると思う。
・母という存在はアーキタイプとして非常に大きい。デビュー1年目の時に『あなたの作品っていつも母親が死ぬのね』と言われたことがある。この作品ではサンドラ。
(・進行役の教授から、イアンの関わり方も母親的といえるのでは?という言葉)
・イアンのポジション。最初はジェルミが父親を殺した犯人だと思い、告白させようとする。ところが父親が悪人であると知って、彼の世界は反転する。今度はそれこそ母親のように、全てをすててでも、ジェルミを回復させなくてはならないと強く思う。ただ彼はそれを、よくある考え、健全なもので行おうとする。それはジェルミには届かない。そこで感情的な協調が必要になり、恋人どうしのような関係に。後半5年は、イアンとジェルミの関係がどこへいくのかということを考え続けた。
・書きながら自分でも分からないシーンが出てくることがある。サンドラがお墓でジェルミを抱きしめるシーンがそれ。「あんたがジェルミを苦しめたんじゃないの」と思う。でもキャラクターが勝手に『でも私はジェルミを抱きしめる!』と言って抱きしめてしまう。

作品の制作について
・破綻がないように構想するのは得意。ただ頭が考えると予定調和なものになり、おもしろくない(統合・収縮)。これをいかに混乱させて行くか。画でおどかしたり、言葉をいれたりして、枠組みを見せないようにしていく。
・ストーリーよりも情景が先に浮かんで、情景がいいから入れてしまおうということもある。若い頃は星がふるようにアイデアが降ってきた。今はじっくり考えこまないと出てこないことも。仕事は若いうちにしましょう(笑)
・仕事中に思い詰めることもある。1人で作業をしている時はそうでもないが、スタッフに指示をして間違いがあった時など。ムカーっとくると、1度外に出てみる。場所を変えるとポテンシャルがさーっと変わる。怒るとエネルギーを使ってしまうので、そのエネルギーは絵を描くために使いたいなと。
・連載中、「なんでこんなシーンが浮かぶんだろう?」と思うことがある。そのイメージがあまりに強いときは、「こんなにイメージが強烈なんだから描いちゃえ!」と描いてしまう。すると物語の後半で『このことだったのか』と分かる瞬間がくる。
地震学者の方とお話しした時に、「火山活動は予測できる。でも地震はダメだ。」と言われた。野田秀樹さんが、富士山の噴火と地震を扱う演劇の稽古中に3月11日の震災が起こり、上演が中止になるということがあった。学者が予測するより、芸術家が直感する方が早いというようなことはあるかもしれない。

あまちゃんについて
・途中からハマって、その期間はあまちゃんの為に早く起きていた。どうして面白いのか?自分なりに分析。ひとつ思ったことは、あまちゃんには挨拶のシーンがでてこないということ。NHKの連ドラでは「こんにちは」「よくいらっしゃいました、お 茶をどうぞ」というシーンがよくある。あまちゃんにはそれがない。どうしてるのかな?と思ってみていたら、登場人物たち は自分で勝手にお茶をいれている(笑)挨拶が出てくるのは、お父さんが誰もいない部屋に「ただいま」というところなど、 特異性のあるシーン。
・知人の話。嫌いな人に対して、挨拶のように必ず「顔色悪いわね」と言う。これは確実に呪いとして機能する。

家族について
・20代後半はよく家族ともめていた。親は『女の子なんだから結婚しなさい』と言い、漫画家の仕事のことは絵の塾をやっているのだと思っている。どうやったら話が通じ合うんだろう?と考えて、心理学の本を読み始めた。ところが自分の親のような人は、本に載っていない。ある日星占いの本を開いたら、「相性が悪い」と書かれていて、それで決着がついた(笑)
・母はゲゲゲの女房で漫画家の仕事を理解したようだ。『お母さんは知らんかったたい。失礼致しました。』という電話がか かってきた。「ゲゲゲの女房水木しげるさんがずーっと仕事をしよる。あーでもない、こーでもないと考えて絵を描く。あ んたもおなじことをしよったんね」
・この頃読んだ心理学の本でおもしろかったもの。「母言病」と「子供たちの復讐」

漫画について
・漫画にはセリフにたどりつくまでの流れ、コマによる物語の流れがあり、その流れの上で言葉がポンとくるとものすごく感動する。音楽のように魂をゆり動かす事ができる。音楽をききながら「ここに四分音符がある」などとは考えない。
(・進行役の教授から、河合隼雄さんが漫画を読めなかったというお話)
・それは河合先生かわいそう(笑)(漫画を読む為の)学習がないと漫画が読めないかという問題については考え中。小学生までにまったく漫画にふれなかったとしたら、その人は漫画を読めるだろうか。
タブレットは1枚の絵画をみるような感覚。本とはまったく別の表現媒体。「ガラスの仮面60巻とても置いておけないわ!」という時に便利(笑)タブレット専門の作品が出てくるとおもしろいと思う。
・漫画では読者の視線誘導が可能。キャラクターが『ほら』と指を指せば、読者はそれが指し示すものを探して隅まで見てしまう。

萩尾さんご自身のことについて
・モスクワで大きな事故に遭い、頭蓋骨を骨折した。医者から『普通なら脳みそがぐちゃぐちゃになっているはずですよ』と言われた。元々暗くて地味な性格。変なことを言わないようにしなくちゃ、世の中はつらいなあ、政治は悪いなあ(笑)そういう意識だったところで、事故はガラガラポン!された感じ。まいっか、暗くてもいいじゃん!と思うようになった。知り合いから『萩尾さん、頭打って明るくなったね』と言われた(笑)それまでは閉じていたということが、自分で分かるようになった。
・夢見がちな子供だった。私の時代はたくさんの子供が成長した時代である一方、地域はとても貧しかった。勉強をしてお金をもうけなくてはいけないという圧力、童話とか小説は小学生でやめてしまいなさい、大きくなったら今ある現実に対応しなさいという圧力があった。その圧力に自分はとても苦労した。「でもその対応しなくてはいけない現実は、どこまで現実なんだろう?」と考えていた。脳の半分は現実に対応し、半分はファンタジイを想像する。ファンタジイがないと現実も生きられないのでは?
(・進行役の鏡さんから、シェイクスピアの言葉「夢と現実は同じ糸で織られている」)

星占いについて
(・進行役の鏡リュウジさんから、バルバラ異界の時間の捉え方が星占いに近いのではないかという話)
ヒトラーが生まれてきたとき、彼の一生はおりたたまれていたのでしょうか?
・悪について考えることがある。一般的に悪というと、どろぼうや人殺しなどの犯罪を思いがち。ところが大きな悪というものは、国家などの枠組みに中に入ってしまうと見えなくなり、正義になってしまっていたりする。悪には悪の居場所を用意して、それがみえるようにしておかなくてはいけないということはよく分かる。

萩尾さんへの質問コーナーでの話
残酷な神が支配するのエンディングについて。ジェルミは自分の傷を見つめて生きていくしかない。その隣にイアンがそっと寄り添っている。けれど「僕がそばにいるからね」「よかった、これでもう安心だ」という風にはならない。大きな嵐をやりすごしながら、とりあえず夏になったら一緒にボートに乗りましょう。そんな風にして生きていく。ラストに取りが飛び立つシーンがあるが、何かざわざわするものがあるという感じ。
・悪について。チャングムというドラマの中に、「弱いヤツは訴えるすべを何ももたない。だから何をしてもいい」というエピソードが出てくるが、これは悪じゃないかと思う。
・野望について。漫画を描く筋力を増強するボディスーツが欲しい。
・仕事について。30ぐらいまでは順調に仕事できるが、その後ぐらいから20才くらいまでの蓄積がなくなり、枯渇する時期が来る。自分で自分をリフレッシュさせることが必要。本を読んだり、男をつくったり、美術館に行ったり、混沌とした人関係に触れたり(笑)
残酷な神が支配するに出てくる森について。昨日嵐山に行ってきた。ひとつひとつの木々の形も、全体として見渡した森というものもとても綺麗。アランレネ監督映画「去年マリエンバートで」に、シャンパンドレスを着た人物が、森という原始的な世界にいるシーンがあり、とてもおもしろいと思った。
・人間関係について。(どんな人間関係でも続けた方がいいのか?という質問。)人間関係をつくるのが苦手だから、折角縁があったのだからと考えていた時期もあったかもしれない。でも今はしんどい関係からは逃げた方がいいと思う(笑)
・最近好きな本について。ビジョルドという人のSF作品。創元から出ている。あとは「時の旅人クレア」というハーレクインロマンス。旅先では本屋に立ち寄ることにしているが、一時期立て続けにこの本が本屋さんで大きく扱われていたことがあり買って読んでみたら面白かった。